column#15
Paddy McAloon " i trawl the MEGAHERTZ" (EMI Records, 2003)
パディ・マカルーン



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Thomas Dolbyのプロデュースによるクールで疾走感あふれるサウンドと、洗練されたソングライティングによって、80年代にポップソングがまだ進化しうることを信じさせてくれたPrefab Sprout。そのリーダーであったPaddy McAloonの初のソロアルバムは、M1のアルバム・タイトル曲では約20分にわたってテーマとなるモチーフがミニマルに変奏されるなか、女性の朗読が断続的につづくという、かなり意表を突かれる内容だ。そのあとも、M7でほんのわずかPaddy本人のヴォーカルが聴けるだけで、あとはほとんどがインストゥルメンタル、表面的にはほとんどイージーリスニングととられてしまいそうな非ロック的作品だ。もう少し分析的にいえば、サウンドは、ストリングスとトランペットなど若干のホーン類に、ピアノやパーカッションを加えた小規模オーケストラの演奏で、全体的に現代音楽の影響が色濃く見られる。基本はミニマルなのに叙情味たっぷりなメロディ、語りのサンプルを組み込んだ作曲、緻密で躍動的なパーカッションのリズムなどから、John AdamsやGavin Bryars、Steve Reichといった名前が連想させられる一方で、Miles DavisがGil Evansと組んだ一連のジャズ・オーケストラ作品を思わせるところもある(これは音楽観察者Andyさん(http://www15t.sakura.ne.jp/~andy/)の指摘による)。単なるBGMとして聞き流すにはあまりに惜しい、透徹した構成美とときにむせかえるほどの甘美さは、かつてのPrefab Sproutの名盤"Jordan: the Comeback"にも通じる、まさにPaddy McAloon印の音楽である。

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この作品の生まれた背景は、本人による解説もライナーにあるが、数年前に重度の網膜剥離を患い、パソコンはもとより本も読めない日々を過ごすこととなったPaddyは、その間、深夜のラジオやテレビ放送(とりわけ視聴者が自分について語る参加型の番組)を録音したものをひたすら聴くことにはまった経験から着想を得たということらしい。'i trawl the MEGAHERTZ'というタイトルは、気が向くままにチューナーを回していろいろな電波を選びながらラジオの音に聴き入る行為と、自分の記憶の断片を恣意的に選びとり、想い出を創造的につくりあげて人生の意味を見いだそうとする行為をかけあわせた表現なのである。

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今回の訳詞とりあげたのは、20分にわたるM1の表題曲だが、朗読のパートがいくつかに分かれていて、それぞれのパートではそれなりに一貫したストーリーがあるようだが、全体としては必ずしもひとりの人間の人生として整合するようには構成されておらず、Paddy自身も「ひとりの女性が、自分の選択した記憶の断片をもとに人生を反芻している様子を描いているようなもの」と、あえてストーリーにあいまいさを持ち込んでいることを記している。

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ちなみに、M6の'i'm 49'という曲は、男女を交えた複数の人間の断片的なせりふのサンプルからなっており、おそらくそれぞれのサンプルは、ラジオやテレビの放送から実際に録音されたものだろう。今回訳していて気がついたのだが、もともと断片的なこれらのサンプルを組み合わせるところから、'i trawl the MEGAHERTZ'のストーリーを組み立てていったんじゃないだろうか。「私は49歳で、離婚している」、「彼女は心の奥底では絶対彼のことを許さないと思う」、「足を失ったあとのひどい傷に彼女が包帯を巻いているあいだ、兵士は彼女に向かって何度も言い続けた」、「赤ん坊のときの私は、泣くか、歌を歌うかのどちらかだった」、「苦しいときには音楽が鎮痛剤となる」、「私は孤独だ」といったせりふは、それぞれ性別もたぶん年齢も異なる人たちの声なのだが、M1の'i trawl the MEGAHERTZ'を構成する主要なモチーフになっていると思われる。

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ところで、M1のモチーフとなっている印象的なメロディは、いかにもPaddy McAloonという感じで、初めて聴いたときからPrefab Sproutの曲のどれかに似たものがあるような気がずっとしているのだが、どうしても思い出せないのは単なる思いこみのせいだろうか。



メガヘルツの海で網をたぐる
i trawl the MEGAHERTZ
(Paddy McAloon)


私は自分の人生について自分に向かって話している
歌や小説よりも不可思議な私の人生について
まずは楽しいミステリーから始めよう
とらえどころのないものをなんとかとらえようとする
これはラジオが発明されるより昔のこと

脚を痛めた馬たちが傷をいやす農場
秋が反転される木立のなか
思い出のなかの愛しいあの人の腕に抱かれる至福に思いをはせる
私は言う「あなたのお父さんはあなたのことが大好きなのよ」
私は言う「あなたのお父さんはあなたのことが本当に大好きなのよ
ただあの人はこれ以上私たちといっしょに暮らしていくことはできないと思ったの」

飛行機が敵の前線を越えて着陸する
その国の言葉をあなたは話せない
ひとりの少女があなたのことを哀れに思う
彼女はマザー・テレサのように貧しい人たちのなかを歩きまわる
彼女の目は暗闇を見通す力を備えている

果樹園のなかで 青白い光に全身を照らされて
彼女はあなたの包帯を替え あなたをいたわってくれる
日の出ているあいだ彼女の声は鎮痛剤となり
陽の沈むころ彼女はあなたの体を横たえる

彼女は翼を広げて毎日やってくる天使
人間のやさしさの泉へ通い疲れた彼女は足を痛めている
しかし彼女はあなたに名前を与え
あなたはその名に慣れていく

卑劣な浮浪者であれ
ワーグナーのオペラに身をまかせる王子であれ
あなたは不完全ではあれ よその国の言葉を少しずつ学んでいく
そしてあの足音についていく
起こり得なかった愛の航跡


パリですごした12日間
そして私は人生の始まりを待っている
ホテル・シャルマーニュのロビーには
ラップ・アーティストや未成年の王族の写真が飾ってある
写真のなかの煙草はすべてエアブラシで消されていてる
だれもが嘘をつき そしてその愚行から救われる者はだれもいない

ルシファー(魔王)になったつもりで得意になり
私は灯油を原料につくられたドレスと
火打ち石のように冷酷な目を隠そうとはしない
この目でしかと見据えれば
あの写真に発ガン性の警告をつけ直すこともできる
これがただの虚勢にすぎないとしたらどうしたものか

パリには12日間しかいられない
そして私は人生の始まりを待っている

私は自分の才能を十分に発揮させようと
シーツに広がる黒い髪をあとにする
そして熱狂的なホルモンの人質となったあなたは
このように言うことになるだろう
「私は次期の桂冠詩人で 彼女は処女なる聖母
この夏のすべては彼女のためにある」


はじめはあなたに気づかなかった
あなたの髪の色にも すぐに笑う癖にも
空高く流星が駆け抜けていくというのに
私は靴ひもを結んでいたり
舗道の美しさに魅了されていたり

才能に欠ける錬金術師である私には
必要な物がすべて目の前にそろっている
ただしかるべき組み合わせがわからないだけなのだ
どうか許してほしい 私が夢遊状態で歩きまわることを
私は流行ものの歌にいらだちをおぼえる
その甘ったるさが私には耐えがたい
その歌は見当違いにも星明かりに近づいたつもりでいる

一方に現実の世界がある
列車は遅れ
医者は悪い知らせを伝えるが
私は子守歌の世界に暮らしている

あなたは出世をめざす入口で人混みにもまれているのかもしれない
それともただやりすごしているだけなのか
私にはわからない

あなたは最高のときを飾るただ一度だけの相手
すぐに私はあなたの表情に
温かさ はげまし そして承諾を読みとるだろう
関心という1つのどんぐりから 私は大きな愛情の森をはぐむ
イエス・キリストの言葉を何世紀にもわたって玩味してきた学者たちのように
あなたのしぐさが持つ意味を私は解析しつづける
偏狭な私の解釈にあてはまらないものはあっさりと切り捨てる
なぜなら私はそういう性格だから 慎みというものを知らないのだ
そして「メーデー、メーデー、針が目盛りから離れていくのを見ていて」
私は向こう見ずな性格だ


私は自分の人生について自分に向けて話している

すぐにあなたを共犯者に仕立て上げるだろう
めまいがするとき 私はそれを歓喜と呼ぶ
具合が悪いときは あなたがここにいないせいにする
あなたは潮の満ち引きのように私の気分を左右するからと
隣人たちの言うことは忘れ 犬のように月に向かって吠える
つまり私は身を焦がすような思いをしたいだけ
これが発熱のはじまり


きのう調査があった
私は自慢げにこう答えた
「私は喜びからドアふたつ離れたところに住んでいます」
今日はうろたえつつ嫌味を言いたい気分になり
電話をかけてこう言った
「そんなのわかりきってることでしょ
 このスラム街はからっぽなのよ」

私の言葉をくりかえしなさい
「幸せはただの習慣にすぎない」
私は鏡に映った顔が話すのを聞いている
でも彼女が私に向かって話すことを信じる気にはなれない
現代風の言葉で話してはいるけれど
彼女の目は中世の時代から庭や洞窟で泣き続けている

これは熱が下がったすぐあとのこと
私は想像上のゲートの鉄棒に手のひらをあてて熱をさます
自分の意志で極端な行動に出なければ
私はカントリーソングの登場人物になりはててしまうだろう
「神様、あなたは私に何も与えることなく
すべてを奪い去った」

これは悲しみに充ちた謎解きの話
そして私は注意を向けなければならない
私の心の小部屋にはひとりの会計士が座っている
彼はまゆをひそめ 私に向かって赤い紙を振っている
私は新鮮な空気を吸いたくなって窓辺に向かう

りんごの匂いがする
味わってみたいと思うが
雨のせいで果樹園は見えない


これには二つの見方がある
ひとつは あなたがもういなくなってしまったと認め
健忘症という名の祭壇にろうそくの灯をともすこと
(ふりをすることだってできる)
麻酔術の地下世界では
哀しみの白いカヌーが 朝早い時刻に下流へといつまでも流れている
「私がもうすぐ行くと星々に伝えて
私のために場所を空けておくようにと
たとえ骨になろうと 塵になろうと 灰になろうと
星々に囲まれた私は自由になる」
きっとすばらしい歌ができるだろう
でもそれは陰鬱な思考がつらなり積み荷が重くなりすぎた列車のようなもの

もちろんこれには別な見方もある
「あなたのお父さんはあなたのことが大好きなの」
私は言った「あなたのお父さんはあなたのことが本当に大好きなのよ
ただあの人はもう私たちといっしょには暮らしていくことはできないと思ったの」

私は自分の人生について自分に向けて語っている


昼も夜も天空にはきれいな電子の皿が何枚も列車に引かれている
創造の瞬間のにじみゆくこだまに耳をすませている
ひとかけらの偶然をとらえよう耳をすませている
それは 私たちがいったい何者であり
どこから来たのかを自分自身で理解する助けとなってくれるだろう
そしてその慈悲深い副次的な効果として
失われたものは何もないということを教えてくれるだろう

だから
私は空をさぐり
じっと耳をすます
私はメガヘルツの海で網をたぐる
だが網の目は粗すぎて
あなたをとらえることができない
二つの大陸を渡る一羽の白鳥
レーダーを逃れる幻の影

それでもあなたを最後に見かけたところから私は決して目を離さない
あなたからの信号は緊急だがとぎれがちだ
あなたが荒れ狂う風雪に舞う綿毛となってしまう前に
飛行機が敵の前線を越えて着陸する

(対訳タイコウチ)